2007
巨大な質量をもった小惑星同士が交錯し、激突する。
音のない宇宙空間で見るそれは、作り物のようだった。
砕けた岩で戦艦が潰され、誘爆し、悲鳴が宇宙に響いていなければ。錯綜していた光は耐えて、敵味方、全てのMSが宙域を離脱していく。アムロは感情のこもらない瞳で、流れていく光の点を見ていた。僚機はない。先ほどまでいたクワトロもカミーユを見つけたならば、離脱するだろう。遠くにあるカミーユの気配は、酷く不安定だった。戦闘状態というには、あまりにも動揺していた。だからアムロは、クワトロに頼んだのだ。カミーユを迎えにいって欲しい、と。
クワトロも、連絡のないカミーユを心配していたのだろう。岩塊が飛びかう危険な空域に怯むことなく、飛び込んでいった。アムロも、まもなく脱出する。今まで動かったのは、理由があった。ガロードのXが、アムロのWゼータを目印に戻ってくるところだったのだ。
ディバイダーをブースターにしたXは、Wゼータの側にすっ飛んでくると接触回線で話しかけてくる。
『アムロ!ここって、ヤバいんじゃねーの?』
声と共に、頑丈な気配がよりそってくる。そう感じたときアムロは、張り詰めていた緊張の糸を緩めていた。
「ヤバいよ。ガロードが戻って来たから、引き上げられる」
『え?あ、わりぃ。他の皆は?』
「中破はあるけど、他は無事だ。カミーユもクワトロ大尉が連れて帰ってくるだろう…俺たちも戻るぞ」
『了解!』
ガロードにニュータイプ能力はない。だが、恐ろしくカンが良い。認識力や予知といった類ではなく、危険になればなるほど研ぎ澄まされるそれは、野生のカンとしか説明できないのだが。同時に、適応能力もすさまじい。それらが合わさって、どういう化学反応を起こすのか、ガロードは宇宙空間で必ずアムロを見つけだす。感じるのではない。目視でアムロの機体を見分けるのだ――どんなに小さな光点であっても。しかしガロードが、サイコミュに呼応することはない。アムロが感じるガロードの気配も同種のものではなかった。
ティファが精神的存在ならガロードは肉体的存在だった。手を伸ばせば確かに存在するのだ。それは命綱のようにアムロを繋いでいた。どこにも行かないように、と。触れあう体温は、温かかった。
それなのに――…アムロは口元に手をやろうとして、バイザーに指をぶつける。軽い失敗音に、苦く笑った。
あの男の体温は、火傷しそうなほど熱かった。
「正気か、貴様…っ!」
鈍い音と共に、アムロの身体がクワトロから離れる。向う脛をしたたかに蹴りつけられたのに、クワトロは傷みを覚えなかった。呼吸困難で、頬を紅潮させたアムロを見ていた。唾液で濡れた口唇が、乱暴な仕草でぬぐわれる。大きな瞳は、わずかに潤んでいるようだった。
「…少なくとも、冗談ではない」
すばやく平静を取り戻したクワトロが言うと、アムロはぎょっとして顔を上げた。そのまま硬直して自分を見上げる子供っぽい仕草を、クワトロは愛しく思った。
ただ、欲しいと思う。
自分を見つめて欲しいと、願う。
愛しいと思うそれは、恋着だ。
我ながら、冗談のようだと思う。だがアムロに向かって迸る感情を、他の何だと言えばよいのか。執着と呼ぶには、切なすぎる想いを。認めたくはないが、認めなくてはならない。若さゆえの過ちと、逃げることもできない。第一、過ちではない。クワトロにとって、この想いは必然だった。
「貴様…ゲイ…いや、バイだったのか?」
何処にも逃げられない小さな空間に閉じ込められたため、精一杯壁に背中をべったりくっつけて距離をとると、アムロは探るように上目使いで見上げてくる。そんな仕草は、相手を煽るだけだというのに。
「君が欲しいということは、結果としてそうなるな」
「ほ、欲しいぃ…っっ?!」
するりと出た言葉に、アムロの頬が一気に赤く染まった。
「当然の心理だろう?愛しい者を前に、聖人君子ではいられまい」
「い、い、いと…っ…」
あわあわとマトモな言葉をしゃべれなくなっていたアムロの顔色が、赤から青に変わっていく。混乱した脳内配線が処理能力を超えて、ついに2、3本、ショートしたのかもしれない。真っ白になりかけたアムロは、ずいっと顔を寄せられると、瞬時に我を取り戻していた。クワトロが残念に思う前で、2、3度深呼吸をしてから、アムロはおもむろに口を開く。
「……俺は今、恋人を持つつもりはない。いつか得るとしても、相手は女性がいい。他を当たってくれ」
「私は君がいい。君以外の誰も欲しくはない。ララァを失ってから、君だけが――私を引き寄せる」